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- 2023.05.31
IPCC第6次評価報告書が示した温暖化の現状
あと10年、温室効果ガス60%の削減が必要!!
2023年3月20日公表された気候変動に関する政府間パネルIPCC第6次評価報告書「政策決定者向け要約」では、現在の温室効果ガス削減目標を達成したとしても、産業革命前の地球平均気温から1.5℃を超えてしまい「2025年までに温室効果ガスの排出量を減少に転じ、2035年に2019年比で60%を削減する必要がある。」と分析されています。現在の各国の削減目標は、以下の表のとおりです。
JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センターホームページより(2022年10月更新)
現在、日本の削減目標は2030年に2013年比で46%の削減にとどまっており、業務部門では51%の削減が求められています。2035年までに60%の削減が必要となれば、先進国は60%以上の削減が必要となり、上記の削減目標をさらに強化する必要があります。
2023年5月に開催されるG7首脳会議や11月に開催されるアラブ首長国連邦(UAE)での第28回締約国会議(COP28)では、世界各国の温室効果ガス削減目標のさらなる強化を前提に議論されることになるでしょう。
JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センターホームページより(2022年10月更新)
IPCC第6次評価報告書では、火山活動など自然起源の要因による平均気温上昇を考慮しても、世界中で観測された地表の平均気温の上昇は、産業革命前に比べて、2020年には既に約1.1℃上昇していることが報告ています。
今、世界が目標としている世界平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5℃以下に抑えるためには、あと0.4℃しか残されていません。地球温暖化の原因である温室効果ガス(主に二酸化炭素)の排出を今すぐ止めたとしても果たして間に合うかどうか、限界は近づいています。
現在の削減目標では2030年に1.5℃を超える
IPCC第6次評価報告書(WG1)では、2100年までの世界平均気温の変化予測もシミュレーションされています。全国地球温暖化防止活動センターホームページに掲載されている下のグラフをご覧ください(2030年と2050年に破線を加筆しました)。シナリオSSP5-8.5(化石燃料依存型の発展下で気候政策を導入しないシナリオ)では、今世紀半ばの2050年には2.5℃近くまで上昇すると予測されています。シナリオSSP1-2.6(持続可能な発展の下で気温上昇を2℃未満におさえるシナリオ)でも、2050年には1.5℃を超えてしまいます。
そして、現在の各国の削減目標を達成した場合の予測は、シナリオSSP2-4.5(中道的な発展の下で気候政策を導入するシナリオ)で、2030年に1.5℃を超え、2050年には2.0℃まで上昇してしまいます。
JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センターホームページより(2022年10月更新)
IPCC第6次評価報告書「政策決定者向け要約」の日本語訳の暫定版は、以下のURLからご覧いただけます。
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/IPCC_AR6_WGI_SPM_JP.pdf
以下、参考情報
プラネタリーバウンダリーの概念
ストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム博士(現ポツダム気候影響研究所所長)を代表とする29名の科学者グループにより開発された概念で、2015年の国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)にも多大な影響を与え、地球環境に関する目標は、プラネタリー・バウンダリー内で達成すべきものとして設定されています。
平均気温上昇2.0℃は地球の限界を超える
「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」とは、地球の環境容量を科学的に表示し、地球の環境容量を代表する9つのプラネタリーシステム〈気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素とリンの循環、グローバルな淡水利用、土地利用変化、生物圏の一体性、大気エアロゾルの負荷、新規化学物質〉を対象として取り上げ、それぞれの限界点を超えると壊滅的な変化を起こしてしまうという地球的危機を示すものです。環境省「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(概要)」より
上の図は、環境省2017年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(概要)に掲載された図です。
赤い円を超えている「気候変動」「生物圏の一体性」「土地利用変化」「生物地球化学的循環」については、人間が安全に活動できる境界を越えるレベルに達していることが分かります。黒の太線は、後戻りできない限界点を示しています。
空白の「新規化学物質」「大気エアロゾルの負荷」「生態系機能の消失」は、深刻な状況にあるが未解析であることを示しているにすぎません。
気候変動は、現状はまだ限界点を超えてはいませが超えてはいけない、つまり臨界点の目安とする1.5℃の気温上昇を超えてしまうと取り返しがつかないからこそ、今世界は温暖化を止めようと動いているわけです。一方ですでに限界ラインを大幅に超え、極めて危険なゾーンに入っている分野が2つあります。それが「生物圏の一体性(絶滅の速度)」と「生物地球化学的循環(窒素・リンの循環)」です。
また現在多くの科学者は、地球の平均気温上昇が2.0℃を超えると、たとえ人類が温室効果ガスの排出を止めたとしても、地球のシステムが温暖化を進める方向へ機能し始めて、温暖化がますます進み、数百年をかけて平均気温の上昇は「+4~+6℃」というきわめて危険なレベルに到達してしまうとされています。
既存建築物の省エネはエコチューニングで…
日本の建物ストックは約26億3,000万㎡で、そのうち新築建物は約5,300万㎡です(2018年国土交通省建築着工統計調査・建築物ストック統計より)。全国の建物ストックのうち、既存建築物が98%を占めています。新築建物のZEB化の動きは強まっていますが、既存建築物の省エネ化の進展がまだまだ遅れている状況が続いています。IPCC第6次評価報告書やプラネタリー・バウンダリーの評価が示すように、地球温暖化対策の限界が近づいています。既存建築物の消費エネルギーを削減し続けることができるエコチューニング技術を、今こそ活かす時です。